http://rikunabi-next.yahoo.co.jp/tech/docs/ct_s03600.jsp?p=000878
稲見昌彦 光学迷彩 研究者

・私のもともとの専門はバーチャル・リアリティ(VR)でした。日本のVRは、機械系の人が中心だったんです。ところが、実は私は修士までの専攻は分子生物学でして。原子間力顕微鏡やバイオセンサーの研究をしていた。ただ、大学を選んだのも、たまたま学園祭で見に行ったロボットサークルの二足歩行ロボットに驚いたから、という動機があるほどで、機械には興味はあって。そんな複雑なバックグラウンドがあったからか、早くからコンピュータの出力の限界についても、あるいはVRについても、大きな疑問をもっていたんです。

分子生物学→機械工学、光学迷彩

・人の出力というのは、実はもともと難しいんですね。例えば、絵は一瞬で見ることができますが、書くには相当な時間がかかります。出力は本質的に難しいんです。

・本当に自分が何をやりたいのかを知るまでに時間がかかった 。

・好きなことと、得意なことは一致しないということがわかったんです

・学問を積み上げたうえに生まれたアイデアではない。「まずこういうものが欲しい、というのが最初にあって、それを作るために必要な勉強をしていった、ということなんです」。

日本人はロボットを作るとき、『鉄腕アトム』や『機動戦士ガンダム』を引き合いに出します。でも、「ああ、あのアニメの世界ね」というシンプルさがいいんだと思うんです。実は私はMITのAIラボで半年間研究していたんですが、アメリカの研究者も同じなんです。彼らは真顔で言っていたのは、『2001年のHAL』を作りたい、だった。やりたいことを人に説明するとき、これほどシンプルな言葉はない。「光学迷彩」だって、『攻殻機動隊』を知る人には共通言語になりますから。

・ただ、通信信号について説明しようとしたら、目の前であっという間にハッキングされてて(笑)。おまけに翌日は、インターンで来ていた高校生にもハッキングされて。この分野では、やっぱり絶対にかなわないと思いました(笑)。

・自身で大きな転機になったのは、電気通信大で研究室をもったことですね。東大で助手の頃出会った電気通信大出身者を見ていて、モノづくり教育に熱心であることはすぐにわかりました。口よりも手が先に動く(笑)。こういう環境にいれば、研究スピードが上がるかもしれないと思いましたが、実際そうでした。

・ものすごいスランプを経験したのは、電気通信大に来るちょっと前でした。どうしてもアイデアが出てこない。苦しかったですね。何かきっかけを得ようと、旅をしたり酒を飲んだり。でもダメ。ところが、ブレークスルーは意外なところにあった。学会でした。面白い研究を見て、自分もやってみたくなった。もうひとつだな、と思う研究は、自分ならこうするのに、と思った。そんなふうに過ごしているうちに、発想が戻っている自分がいたんです。

・アイデアも、研究者の共通言語だと思うんです。そして、面白い人と話すことが、面白いアイデアを生む。ただし、面白い人と話すには、こっちも面白いネタをもっていないといけません。自分の話を面白そうに話していると、相手も燃えてくるんですよね。だから、「いやいや、ここだけの話なんだけどね」が出てくる。こうなればしめたもので(笑)。

・「こんなの誰も思いつかないだろう」と思っていたことを、同じ時期に考えている人がいたりするから。「同時性の法則」です。これ、本当にあるんです。

・違うものを出そうとすれば、普段から違うものを脳ミソに入れていけばいいわけです。「入力」が変われば「出力」も変わる可能性がある。いつもと違うことをする。違う本を読む。違う絵を見たり、音楽を聴く。これで出力は変わる。そして同時に、いいものを見ることを心がける。アイデアのレベルを高めるためです。

・私は生まれ変わっても、エンジニアになりたいです。だって、欲しいものがあれば、自分で作れるのがエンジニアだから。誰かが作ってくれるのを待っている必要はない。自分で作れてしまえるんです。世界で一番最初に体験もできてしまう。これほど幸せなことはないと思います。だからこそ、自分が欲しいものをどんどん作らないといけないと思うんです。それが世の中の役に立てると思えるなら。とりわけこれからは「何を作るか」が問われる時代です。難しいことです。でも、そこにこだわるエンジニアこそが、きっといい仕事ができる時代が、既に来ていると私は思うんです。